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春風が運んだ花粉と出逢い

Pollen and love that spring wind carried

 

 

Competition entry for [OTO no MORI Photo Contest].

The contest theme was [spring].

(May,2012)

 

location → ArtsStyle

 

************************ SS story ************************

 

ある春の日。

 

いつもと同じ朝、いつもと同じ駅のホーム。

 

いつもと違うのは、俺の鼻だけ。

 

なんで、こんなにムズムズする?

いや、鼻だけじゃない。

のどは、何か薄い膜が張ったように気持ち悪いし、

目には勝手に涙が溜まる。

 

まさか・・・・花粉症?

 

いやいやいや!!

思わず、わしわしと首を振ってしまった。

隣に並んだ女の子が、びくっと体を震わせて、こちらを見る。

あちゃ、キョドってると思われた・・・。

 

彼女とは、毎日同じ電車に乗っている。

見かけるようになったのは4月になった今月の始めからなので、新卒の会社員なのかもしれない。

デカいマスクと、懐かしのアニメキャラみたいなメガネをしていて、

顔がわからないのが残念だ。

スーツのセンスもいいし、何よりあんないいスタイルしてるのにもったいないなあ、と、

横目でこっそり眺めた時、さあっと風が吹きぬけて、彼女の前髪を揺らした。

 

その直後、

 

鼻のムズムズ度がMAXに跳ね上がり、

 

「ひ~ひゃっ、ぶはっくしょんっっ!!!」

 

メガ盛りくしゃみをしてしまった。

なんだ?!今の風、なんか、黄色く見えたぞ?!

いや、そんなことより・・・

彼女の視線が俺の顔に固定されている気がする。

そして、この鼻の下のイヤ~な違和感。

 

・・・もしかして、俺、鼻水垂れてる??!!

 

ティッシュ、ティッシュ!とポケットを探ってみたけど、そんなものを持ち歩く習慣なんてない。

紙、とにかく紙!!

朝一で使う予定の資料が鞄の中にある。出力し直す時間あるか?

いや、もう背に腹は変えられない。どうとでもなれと鞄に飛びつこうとした瞬間、

 

「あのっ!」

 

いきなりの大声に思わず振り向くと、目の前にはボックスティッシュが。

 

え、ボックスティッシュ?

 

差し出しているのは彼女だ。

うつむいたまま、両手でテッシュを差し出している。

 

「どうぞ!!使ってください!!」

 

その迫力に、思わず手を伸ばしてテッシュを引き出し、鼻をぬぐう。

やっぱり出てた。ああ、恥ずかしい。

これで、彼女とも終わりだなあ・・・別に何も始ってなかったけど。

 

「ぁ、ありがとうございます。助かりました。」

 

かろうじてお礼を言って背を向ける。明日から気まずいなあ。

 

「あの・・・花粉症、ですよね?」

 

ああ、俺って昔からこうなんだよなあ、別にモテない方じゃないのに、

気になる子の前に限って、なんかやらかしてポイント下げちゃうっていうか。

 

「私もなんです。あ、こんなおっきなマスクしてたらわかりますよねw

春の間はずっとこうで・・・今月から社会人なんですけど、こんなだからなかなか顔覚えてもらえなくって。」

 

前にやっとこさ飯までこぎつけた子から連絡なくなったのも、フレンチの店で俺が派手にワイングラス倒したからだろうな、やっぱ。

 

「はるがこのみです」

 

春なんか好みじゃねえよ。みんな浮かれてるけど、別に楽しいこともないし、

おまけにとうとう花粉症に・・・ん?

 

振り返ると、知らない美人が立っていた。

いや、メガネとマスクを外した、笑顔の彼女だ。

 

「皮肉ですよね。花粉症で春が苦手な私の名前が、春賀好美って。

でも、おかげで顔はともかく名前だけは覚えてもらえるの早くって。

・・・で、あの、よかったら、名前と顔、セットで覚えていただけませんか。」

 

もしかして・・・・春が来た、かも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Uploaded on April 19, 2012
Taken on April 19, 2012